お昼を買いにエレベーターへと向かうと、お友達二人が駆け込んできました。

どこか行くの？

持ち主が聞くとお友達がいいました。

たましんへ行く

たましん？

持ち主がびっくりして聞き直すと、お友達はきょとんとした顔をして言いました。

手巻き（を食べ）に行くって言ったんだよ。たましんってなに？

たましんとは、多摩在住の人には身近な信用金庫です。

多摩信用金庫だよ。

持ち主が大興奮で言うと、お友達ふたりはあまり関心のない表情で、へ〜と言いました。
ところが、隣にいたおとなしげなおじさまが、ぶっと吹き出したんです。

ぼくは見ましたよ。あなた、多摩関係者でしょ。

ぼくの持ち主はお茶を飲むため、お湯を沸かそうと思いました。
右手でガスに火をつけながら、器用に左手で鉄瓶に蓋をのせようとすると、なぜかカーンという音がしました。

持ち主が左手の手元を見ると、なんと、持っていたのは鉄瓶の蓋ではありませんでした。
その手に握られていたのは、片手鍋の蓋だったのです。

取っ手部分の形状も違うし、質感も大きさもちがうし、なぜ無意識に小鍋の蓋を選んだのでしょうか。疲れているんでしょうか

ぼくの持ち主は、軽量な傘をネットで購入しました。
開けてびっくり。水玉の傘を頼んだのに、ボーダーの傘が入ってます。

持ち主は、いそいで注文の確認をしました。
すると、なんと持ち主はボーダーを注文していました。
お店は間違っていません。持ち主が間違えたんです。
いえ、持ち主は間違えたのではなく、水玉だと思ってボーダーを注文していました。

コーヒーと言ったつもりで紅茶と言ったり、イルカと言ったつもりでクジラと言ったり、持ち主は、時々言葉と意味のつながりが、乱れることがあるのです。
ふだんは、まぁいいや。と、思いますが、実害が出ると困ります。

ぼくの持ち主がカゴバッグを持って歩いていると、後ろから異国のおじさんの声がしました。

マイスペック！

持ち主はおじさんの言ったように言いました。

マイスペック？

すると、おじさんが爆笑しながら言ったのです。

ナイスバッグ。ナーイスバッグ。

それを聞いて、持ち主も爆笑しました。
となりにいたお友達も爆笑しました。
そして、おじさんと一緒にいたおじさんも爆笑しました。

持ち主の聞き間違い、インターナショナル級です。

ランチを共にするお姉さんのお嬢さん、ご結婚がきまったそうです。
お姉さんは、ちょっと寂しそうにいいました。

ちゃんと、来たのよ。挨拶に。
お母さんをくださいって。

少しの間の後、爆笑が走りました。

お姉さんったら、「お母さん、お嬢さんをください。」の、「お嬢さん」部分を焦って端折ってしまったようです。

でも、お母さんをください。だと、相当の修羅場になります。言葉って危険ですね。

大ボスが、自席で電話しています。そして、低くて素敵な声で言いました。

履いてますよ。

いえいえ。たぶん空いてますよ。って言ったんです。きっとなにかのスケージュリングの電話なんです。
でも持ち主には、流行りのネタである「安心してください。履いてますよ。」の「履いてますよ。」に、聞こえてしまったんです。

それからもう、おかしくておかしくて仕方なかったんです。
大ボス、二回も言ったんです。すごくいい声で。

履いてますよ。

ぼくの持ち主が、新宿駅のホーム並ぼうとした時です。
アナウンスが聞こえました。

緊急～緊急～

緊急？それはまずいです。
また、事故でしょうか？
また、電車が遅れるのでしょうか？

持ち主は耳をすまします。

しかし、緊急の放送は始まりません。

しばらくして、また、放送がなりました。

新宿です。

ああ。緊急ではなくて、どうやら新宿でした。
緊急なことが多くて、うっかり聞き間違えました。

数人いる、ぼくの持ち主の血がつながらない父たちの中でも、
もっとも破天荒な人生を送る写真家のとーさん。

彼が個展をやることになったそうで、

来てくれな。

と、持ち主にハガキをくれました。

これまでの写真のイメージと違うような感じがしたので

写真、変わった？

と、聞くと、写真家とーさんは言いました。

変わってないよ。金魚ばっかり。

金魚？

持ち主が眉間にしわを寄せると、写真家とーさんは言います。

そう。金魚金魚。
俺は、自転車で行けるとこしか撮らないからな。

そこまで聞いてわかりました。
金魚ではなく、近所ということに。

写真家とーさん、そういや前歯が一本抜けている。

個展の時は、びしっと歯、いれるからよ。

写真家とーさんは微笑むのでした。

外にご飯を食べに行った時のことです。
しっかり食べるお友達が、ご飯のお代わりを注文しました。

そして、お櫃できたご飯を見たお友達は言いました。

ああ。男前だね。

男前なごはんって、どんなのでしょう。
大量に入っているとか？米粒が大きいとか？

男前？

持ち主が聞き返すと、お友達は言いました。

そうそう五穀米。

ああ。五穀米のことでしたか。

アマゾンからメールが来たんです。
おすすめの紹介をされたんです。

マグネットシート白クマ！

アマゾンったら、いつの間に持ち主がしろくま好きって知ったのでしょうか？
しろくま系商品をアマゾンで買ったことはないのに。
おそろしいです。

で、恐怖にうちふるえながら商品をよく見たら、
白クマではなく、白マクでした。