ぼくの持ち主は、もともと紅茶派だったんです。
コーヒーはミルクを入れないと飲めないという子供口だったんです。
でも、最近コーヒーに目覚めつつあります。
１２歳の時にイギリスにホームステイしてからこれまで、毎朝紅茶を飲むのが日課だったのに、最近はコーヒーの時もあるほどです。
でも、なにが美味しいとか、なにが好きとかはわからないコーヒー素人なので、豆はもっぱらお店のブレンドしか買いません。
コーヒー専門店の半額キャンペーンの時は、前後の人が洒落たコーヒーを注文する中、ブレンドしかわからない持ち主はちょっとカッコ悪いです。しかしまだまだ素人ですから仕方ありません。
ああ。洒落たコーヒーを注文できる人になりたいものです。
持ち主は久々にロールケーキを食べました。なぜかというと、やきいもが食べられなかったからです。
会社の近くで、やきいもイベントがあるらしいとお友達から聞いたぼくの持ち主。
しかし就業時間中にイベントが終わってしまうので諦めていました。
でも一軒だけ、２０時までやきいもを売っているお店があったので、行ってみようということになったのです。
残業を頼みたそうな上司を華麗にスルーし、終業後に会場へ急ぐ持ち主たち。
やきいもでケホケホしてはいけないと、お茶まで購入して現場へと向かいました。
同じ駅とはいえ、結構な距離があり、到着には２０分ほどかかったでしょうか。
迷いながらようやく到着すると、そこにはお兄さんが立っていました。
そして、持ち主たちに言ったんです。
すみません。もう売れ切れてしまいました。今日はちょっと予想外で。
お友達と持ち主は、がっくりと肩を落としたのでした。
それでお腹をすかした持ち主たちは、やきいもの代わりにカフェに寄ったんです。
ロールケーキを食べたのは、そんな訳です。
お友達が言うんです。
ＴＪは、クマ部門第１位だよ。
お友達は、好きなアーティストが数人いるので、一番好きとは言えないけれど、クマ部門では一番好きだっていうことです。
ところがですね、最近クマ部門１位も危うくなってるんです。
なんと第２位が追いつこうとしてるんです。
クマ部門第２位は営業のお兄さんで、こぐまのような風貌とえくぼがチャーミングな人。
お友達は、かわいい。っていうんです。それだけでなく、仲良しのお姉さんでさえも、彼、ほんと感じいいわよね。って、いうんです。
それだけでなく、持ち主さえも、こぐまみたいでかわいい。っていうんです。
あああ！せめてクマ部門の１位は保持したいです。
仲良しのお姉さんが、お嬢さんの結婚式のためにハワイに旅立つことになりました。
ぼくはハワイに行ったことがないので、いいなぁ。と、ため息をつきます。
すると、お姉さんが言ったんです。
ＴＪ、ハワイに連れていってあげようか？
えっ！いいんですか？
ぼくの脳裏に、青い空、白い雲、輝く太陽を背に、ジップロックに入ったぼくが海に浮かんでいる姿が浮かびます。
しかし、次の瞬間、お姉さんが言ったのです。
あ、やっぱりダメだわ。あちらのご両親に危ない人って思われちゃうもの。
えええ。そんなことないですよ。かわいいぼくと一緒なんですよ。
いや・・・そんなことありますね。
ハワイを諦めたぼくに、持ち主が優しく、いつかハワイに連れて行ってあげるよ。と、言ったのでした。
持ち主よ。ぼくはその約束を忘れません。
羽田空港に着いても特にやることもないふたりは、ぶらぶらお店を見たりお茶を飲んだりしてダラダラしていました。
そんなとき、雑貨の売ってるお店で持ち主はメントスのガチャガチャを見つけました。１００円入をれると、当たった数字の数だけ小さいメントスが出てくるのです。
いつもはそんなおもちゃに見向きもしないのですが、なぜか急にこのガチャガチャをやりたくなった持ち主は、おもむろに１００円を取り出しました。
１００円を入れてボタンを押します。なんだかワクワクします。
持ち主があたったのは３つのメントスだけでしたが大興奮でした。
その影響でしょうか？今度はお友達がチュッパチャップスのガチャガチャにチャレンジし始めました。お友達は二回のガチャガチャにチャレンジし、合計７個のチュッパチャップスをゲットしました。
子供のようにはしゃぐふたり。いい大人ですが、楽しいからまぁいいんです。
パン屋を離れた持ち主たちは天王洲に向かいました。
天王洲は、むかしお友達の結婚式で一度行ったきりです。
天王洲まで歩けるらしいとは、地元に詳しいお友達に聞いていましたが、近所からちょっと歩いただけで街の雰囲気がどんどん変わっていくのはなかなか面白いです。ただ、風が強くて寒いので、お散歩は早々に切り上げてしまいました。
そしてモノレールの駅でお友達と持ち主は相談です。
どうせなら、いつも行かない羽田空港に行ってみようと、お友達が言うのです。
持ち主は久しぶりにモノレールに乗り羽田空港へと出かけたのでした。
土曜日、持ち主は遊びに来たお友達と近所の探検に出かけました。
まずは贅沢して、近くのホテルで気取って食事です。そしてホテルのパンが美味しいので食パンを買いました。
その後、食べ過ぎたお腹をどうにかするためお散歩です。
前から気になるパン屋さんを見つけに行ってみると、とても可愛らしいお店です。外の窓から覗くとパンも美味しそうです。
お友達とふたり。窓に張り付いてパンを見ます。
そして、美味しそうだし買いたいけれど、ホテルでパンを買ったしね。と、話していると、イートインコーナーに、おばあちゃまが３人ちょこんと座っているのが見えました。
その３人は、こちらを見て大笑いしているのです。
きっと真剣に窓からパンを覗く持ち主たちが、おもしろかったのでしょうね。
ため子は、ぼくの持ち主がかれこれ１５年ほど大切にしているお椀です。
漆の溜塗がとても美しいため子。
しかし内部にヒビが入ってしまい、作家である漆芸家のお兄さんに預けていたんです。
待つこと１４ヶ月。ため子は美しくなってようやく持ち主の手元に戻って来ました。
美しいため子は、木地から作家が作ったもので、フォルム、質感、色と、作家本人も好きな作品だ。と、言います。
なのでため子は、持ち主が先に亡くなった場合、お兄さんに戻すことにしました。
ちなみに持ち主が亡くなった場合、ぼくは持ち主のお友達が引き取ってくれるらしいです。
１，３５０万。
なんの値段かって？
しろくまの値段です。
テレビを見ていたら、しろくまの実物大アート作品のようなものを所持している方がでてきたんです。
かなりのリアルさです。親子で寝そべっていて、とても愛らしい。
こちらのお値段が、１，３５０万！
持ち主テレビに釘付けだったんです。
まさか、欲しいとか言わないですよね。
でかいですよ！高いですよ！
あんなものを例えばローンで買ったとしても、どこに置くんですか？
しろくま部屋が必要ですよ！
おまけにそんな巨大しろくまで借金なんて！
ぼくで我慢しなさい。ぼくで。
小型で軽量。愛らしくて持ち運びも可能です。
土曜日、ぼくの持ち主はお友達と夕飯を食べたんです。
その日は夕方からとても寒い日でした。
でも、一件目のお店はそこそこ暖かかったんです。
しかし二件目のお店、そこは窓際の席だったのでとても寒かったのです。
ドアが開くとものすごい寒気が入ってきて、お友達とふたり、ひえ〜と叫びました。
その上持ち主はパンプスをだったので、足の甲が冷たくて冷たくて凍ってしまいそうでした。
このままでは、しもやけになりそうです。
そして、喫煙者のお友達に、寂しいから付き合ってよ〜。と言われ、寒空の中、ジタバタしながらお友達のタバコにおつきあい。
ああ、冬って、冬って本当に寒いんですね。
家に帰ってお風呂に入り、持ち主はなんとか凍りついた体を溶かしたのでした。