ぼくの持ち主は、来月から違う部署に異動するんです。
これまで働いていた場所と階数も違います。
知り合いもちょっとはいますが、環境は変わります。
だからとっても不安です。
そんな持ち主が、これまでお世話になった人々に軽い挨拶をしながら言うんです。
いやぁ、だれも信じてくれないけど、わたしひとしみりなんで不安です。
本心なんです。知らない人に話しかけるのって、すごく勇気がいるんです。
でも、例外なく笑われます。いや、爆笑されます。
ひとみしり？なにいってるの！
でもね、本当なんです。
人懐っこいとか、親しみ易いとか、みんな言ってくれますけど
本人は心の中で精一杯なんですよ。
持ち主が、始めて飲んだマテ茶を気に入ったと言うと
お友達が腕組みしながら言いました。
じゃぁ、彼氏に買ってきてもらおうかな。いいティーバックがあるんだ。
お友達のボーイフレンドは、アメリカにいるのです。
でもな。
お友達は額にシワを寄せて言いました。
あいつ、頼むと大量に買ってくるんだよ！
以前、クッキーを頼んだところ、大量に買ってきたうえ
その次に来た時も、前回分がまだ残っているというのに
またたくさん買って来てくれたんだそうです。
今度はマテ茶が大量になってしまいそうだ。
と、お友達は笑います。
ぼくは思います。
いつも何かを要求することのないお友達。
彼氏さんは、そんなお友達がめずらしく欲しいというものだから
嬉しくなってたくさん買って来てしまうんじゃないでしょうか。
アメリカ人なのにとってもシャイで静かな彼の、それが不器用な愛情に見えて
ぼくと持ち主は、ニヤニヤしてしまいます。
ぼくの写真を撮りながら、持ち主が言うんです。
ＴＪって、もっとかわいくなかったっけ？
なんだか、可愛く撮れないんだけど
持ち主よ、ぼくももうすぐ１５歳。
年なんですよ。年。
いつまでもかわいくはいられません。
長年の持ち主との移動により、顔がひしゃげて戻らなくなったのが
かわいく無さのひとつであることは、言うまでもありません。
仲良しのお友達と出かけるときは、なぜだか同じようなところに行ってしまうものです。
けれども今回は、目的地があまり行かない方向だったため
いつもと違う場所を散策してみました。
パン屋をみつけてふらりと入り、高いパンとなぜだかアップルパイを買い
いつもは食べないアイスクリームを食べ、いつもは乗らない電車に乗る。
それはそれで楽しいです。
結局最後は、いつも行く街へとたどり着きましたが。
持ち主のお友達は、青春時代をアルゼンチンで過ごしています。
そこで、アルゼンチンの国民的食べ物、チョリパンを食べに行こうということになりました。
ちょ、ちょ、ちょりんぱ？
その文字を持ち主が読み間違えると、お友達が教えてくれました。
チョリパン
チョリソーがパンにはさまってチョリパン。
そこにいろんなトッピングをかけるらしいです。
なるほど
初体験の持ち主は、チョリパンにマテ茶を楽しみました。
手作りチョリソーは、スパイシーでとても美味しいです。
野菜もたっぷりで、意外ともたれません。
後悔したのは、辛いと言われたソースを遠慮がちにしたことです。
もっとたっぷりつけるべきでした。
ぼくの持ち主は、ヒールが高くて綺麗な靴が大好きです。
でも、歩きにくいし足が痛くなるので、拷問靴と呼んでいます。
最近、忙しくて拷問靴を履くチャンスがなかったのですが
一回くらいは履いておこうと、お友達と会う時に履いて行ったのです。
しかし、家を出て数分で後悔しました。
久々の高すぎるヒールに筋肉もとれてしまったのかフラフラして歩きづらいのです。
ああ。拷問靴。結構な数があります。
これから、これらの扱いをどうしましょう。
みてください。こんなものを頂きました。
なにかというと、ゆで卵をこれに入れて成形すると、くま型の卵ができるという代物らしいです。
それを聞いた持ち主は、はっ！と、なりました。
ゆで卵は白です。と、いうことは、しろくま卵ができるということです。
あまり、ゆで卵を食べない持ち主ですが
これは、ぜひとも作らねばなりません。
ぼくの持ち主が仲良しのお姉さんは、群馬の名物焼きまんじゅうをすっかり気に入ったようで
本場の焼きまんじゅうを食べてみたいと、言うようになりました。
お姉さんは八王子在住なので、八高線に乗れば、高崎に到着するというのです。
高崎に行ったら、なにをみるべきかと話しているうちに、お姉さんはつぶやいたのです。
数年前、確か群馬に行ったことがあり、観音様の近くに泊ったと。
お姉さん、それ高崎です。
高崎には、白衣観音という観音様があるのです。
どうやらお姉さんは、焼きまんじゅうに出会う前に、すでに高崎を旅していたらしいです。
あの頃、焼きまんじゅうを知っていれば！と、お姉さんは悔しがるのでした。
子どもの頃から児童書、特に外国の物語が大好きだったぼくの持ち主。
かなりの数を読みあさっていました。
手をつけていなかったのが、指輪物語とランサムです。
指輪物語を数年前に読み、ランサムにも手を付けました。
でも、なかなか進まないのです。
指輪物語も読みにくかったのですが、ランサムも読みにくいのです。
訳との相性なんでしょうか。
言葉使いなのか文体なのか、なぜだか読みにくくて情景が頭に浮かばず
挫折しつつようやく上下刊を読みました。
この程度なら、一日あれば読破できるはずが、半年以上かかるという情けなさ。
続編は、読もうかどうか迷ってます。
なんの話しかって？お好み焼きの話です。
ぼくの持ち主が、お好み焼きを作りました。
題して、スモーキーお好み焼き。
なぜ、スモーキーなのかというと
お好み焼きの具が持ち主父の作ったベーコンとスモークチーズだからです。
生地を切ると、ふんわりスモークの良い香りがします。
かなり贅沢なお好みです。美味しいです。
でも、持ち主父が薫製を作ってくれないと食べられないので
かなり贅沢なお好み焼きだと思います。