ぼくの持ち主がカゴバッグを持って歩いていると、後ろから異国のおじさんの声がしました。
マイスペック!
持ち主はおじさんの言ったように言いました。
マイスペック?
すると、おじさんが爆笑しながら言ったのです。
ナイスバッグ。ナーイスバッグ。
それを聞いて、持ち主も爆笑しました。
となりにいたお友達も爆笑しました。
そして、おじさんと一緒にいたおじさんも爆笑しました。
持ち主の聞き間違い、インターナショナル級です。
10月に会社が合併したことで、ぼくの持ち主にも新しいボスが増えました。
新しいボス、ニューボスは、いつも大阪にいて会議の時などに時々東京へ来ます。
しかしこのニューボス、時々しか東京に来ないのに、部下のことをいろいろとよく知っているのです。
誰かに子供が生まれたなんてことはもちろん、誰々が風邪引いて休んだとか、インフルエンザの検査を受けたとか、ノロウィルス疑惑があるとか。
盗聴機でも仕掛けてるんじゃないかというレベルです。
そんなニューボスに、持ち主が尋ねました。
ボス、いろいろなことをご存知ですね。
ふふふ。ぼくには諜報部員がいるんですよ。
ボスは得意げに微笑みます。
そうですか。じゃぁ、わたしが会社のイベントでディズニーランドペアチケットが当たったことはご存知ですか?
持ち主がニヤリと笑うと、ニューボスは目を見開いて答えました。
むむむ。それは知らなかった!!
どうやら、盗聴機は仕掛けられていなかったみたいです。
外出するときは、よく音楽を聴いているぼくの持ち主。
そんな持ち主に、不幸な事件が起きたんです。
今日は電車がとても混んでいたんです。それで、持ち主はもみくちゃになっていたんです。
ドアが開いてすごい勢いで人が降り、持ち主も流れに沿って降りたのですが、その瞬間にイヤフォンが取れてしまったのです。
見ると、おじさんのお腹に持ち主のイヤフォンがひっかかってます。
持ち主はおじさんを追いかけようとしますが、おじさんはものすごい勢いで、降りていってしまいました。
おじさんは、持ち主のイヤフォンとともにどこかに消えていったのです。
持ち主は、呆然とそこに立ち尽くしました。
しかし、電車が発車しそうになったので、あわてて電車に乗り込みました。
ああ。持ち主のイヤフォンは、いまごろどこかで踏みつけられて、ボロボロになってるんでしょうか。ちょっと悲しいです。