ううううう。

ぼくの持ち主が

顔をしかめてうなっています。

どうやら、どこか痛いみたいです。

しかめっ面の

持ち主の顔を覗き込むと

鼻の頭に巨大なできものが

できていました。

あ、めんちょう。

ぼくがつぶやくと

持ち主は言いました。

痛いし重いしうっとおしい！

ぼくが思うに、先週

若いお友達と、若い人の言うところの

オール（＝持ち主の時代だと貫徹）を

したため、ホルモンバランスがくずれて

めんちょうができたんだと思います。

もう、あまり若くはないのですから

そういった無謀な生活は、慎んだ方が身のためではないでしょうか。

ぼくの持ち主の朝ご飯の基本は

パンと紅茶で構成されています。

ちょうど、紅茶を入れた後に

パンを焼き始めると

パンの焼き上がり時間に

紅茶もできているので

時間も有効に使えます。

それで今日も持ち主は

冷凍庫からパンを出し

やかんでお湯を湧かしていました。

そして、いつものように紅茶を入れてから

パンを焼くためのボタンを押し、ヨーグルトなどを盛りつけていました。

パンが焼き上がった合図とともに

オーブンに駆け寄った持ち主はしかし、驚愕したのです。

なぜなら、オーブンにはなにも入ってなかったからです。

どうやら寝ぼけて、パンを入れないでボタンを押してしまったようです。

確か先週の今日は

すごく暑かった気がします。

それなのに今日は涼しいです。

こんなに気候が突然変わると

身体の調子がなんだか

ズレてくるような感じがします。

ぼくの持ち主も

夏の疲れの蓄積か

気候のせいなのか

だるくて仕方ないようです。

こんな日々が続くと、心も暗くなりそうです。

いけません。

心が暗くなると、どんどん負のスパイラルに引き込まれていきます。

と、いうわけで、ぼくがむずかしいポーズにチャレンジして

みなの心を明るくしようと試みているのです。

電車に乗りこんだぼくの持ち主の目は

ある黄色いポスターにひきつけられました。

しかし次の瞬間、持ち主は

そのコピーに衝撃を受けてしまったのです。

人間ショック

なんという単語の並びでしょう！

一体、どんな商品の広告なのでしょうか？

しばらく広告を見ていた持ち主は

しかしすぐに気がつきました。

どうやらこれは

アウトレットモールの広告のようです。

そして、よく見ると

「人間」は、人間ではありません。入間でした。

入間のアウトレットモールの広告だったのです。

人間→入間。人間ショックではなく、入間ショックでした。

なんかショックです。

その日、自由が丘まで

飲みに出かけたぼくの持ち主が

順調に帰ってこれたのは、新宿まででした。

ホームに着いて、持ち主は仰天しました。

人が溢れ出していたのです。

中央線ではよくあることですが

人身事故です。

やっと来た電車に乗り混むと

予想通りのぎゅうぎゅう詰めです。

久々のぎゅうぎゅうに

持ち主はぐったりしていました。

おまけに持ち主は、あまり背が高くないため

完全に人混みに埋まります。

暑いしきついし足は痛いし、もう、最悪の状態です。

そんなときです。持ち主の斜め前の席があいたのです。

座りたいです。本当に座りたいです。

でも、そこは斜め前。権利を主張しにくい位置です。

するとなんということでしょう。その空席の前に立っていたおじさまが

座れとばかりに、持ち主に向かって顎をしゃくったのです。

おじさん！ありがとう！

おじさんだってお疲れなのに。

そりゃ、持ち主はぎゅうぎゅう押しこくられてつぶれていましたが

こんな自分も大変な事態に、持ち主に席を譲ってくれるなんて

おじさま、ステキすぎです。

日本のおじさま、まだまだ捨てたもんじゃないです。

最近

仲良くなったお友達の仕事は

シフト制なんだそうで

夜中も仕事をするらしく

日々の体調管理が大変なようです。

それで、ぼくの持ち主は

お友達にメールで書きました。

変則勤務、大変だね。

すると、お友達から

速攻で返信があったのです。

変態勤務って読んじゃった。

なるほど。

持ち主の周りの人って、変わった人が多いですけれど、親しくなっていく人も

やはりすてきな見間違いをしてしまうような人なのですね。

これが、類は友を呼ぶってことなんですね。

ぼくの持ち主は

比較的勘の良い方なのですが

ときどきすごい力を発揮します。

こないだ、お友達と話している時に

お誕生日の話になりました。

お誕生月は、お友達の

星座から予測できたのですが

日付は

当てずっぽうで言ったのです。

すると恐ろしいことに

なんとそれが当たったのです。

３１分の１の確率で。

以前も一度、お友達の誕生日と血液型をぴたりと言い当てたことがあるのですが

こうした勘が当たる時はたいてい

あまり考えないで口からぽろって出てきたときです。

ただの偶然なのかもしれませんが、なんだか勘って不思議です。

その日、ぼくの持ち主は

知り合いのお家に

おじゃましていました。

そこには

５歳の男の子がいます。

なかなかすてきな男の子です。

そんな彼が、即興で

なぞなぞを出してくれました。

果物で、バナナに似ていて

長くて

ぷちぷちしているものはなんだ？

と、いうのです。

持ち主は最初

ぶちぶちというところでぶどうかと思いましたが

ぶどうとバナナは似ても似つかないので言いませんでした。

みんな答えられず、彼に答えを聞いてみると

なんと、ぶどう！というではありませんか。

なんで、ぶどう？

ぶどうとバナナ、似てますか？

冷蔵庫をのぞくと

高級レモンが

ふたつ転がっていました。

そうです。

こないだお友達が来たときに

高級レモンを買って

置いていったのでした。

しかし、ふたつの高級レモン。

このままだと

腐らせてしまう可能性が大です。

そうだ！持ち主は思い立って

レモンの蜂蜜漬けを

作ってみることにしました。

そういえば、冷蔵庫には持ち主母ご自慢の高級蜂蜜が眠っていたはずです。

こうして持ち主は、人からもらった高級食材で、レモンの蜂蜜漬けを作ったのです。

きっと、おいしくなるにちがいありません。

あれは初夏。

チャイブにアブラムシがついて

悩んでいたぼくの持ち主ですが

そんな悩みはいまや、ただの

懐かしい思い出となりました。

アブラムシに打ち勝った後

チャイブはあの酷暑を乗り越えて

大変立派な花を

たくさん咲かせたのです。

このままですと

花からは大量の種ができる気がします。

そして来年には、小さな２つのプランターが

チャイブだらけになるような気がします。

チャイブのがんばりすぎに

持ち主は、うれしいような悩ましいような複雑な気持ちです。