ぼくの持ち主は
大変いい加減な人です。
大抵、いい加減でも
どうにかなるので
そんな風に生きてきました。
しかし最近
どうにもならないものを
見つけました。
それは白髪染めです。
持ち主は
自分で白髪を染めていますが
染めて一週間もすると、白いものがちらほら見えてきます。
別に、伸びるのが異様に早いわけではありません。いい加減に染めているからです。
持ち主の染め方は、適当にペタペタと染め液をつけてから
染まっているかの確認をしません。
そのため、染め残しがたくさん出るのです。
すると、２週間くらいで、また染めねばなりません。すごく無駄です。
それで、白髪染めだけはきっちりやった方がよいと、持ち主は反省したのです。

それは、ぼくの持ち主が
電車に
乗っているときのことでした。
運よく座れた持ち主は
次の瞬間
とても良いかおりに気がつきました。
そうです。
いわゆる石鹸のかおりです。
こんなさわやかなかおり
一体どこからするんだろうか？
持ち主は
においの主をさがしました。
すると、どうやら、左手から石鹸のかおりはやってきます。
持ち主の左手に座る人物、それは、ボサボサ頭に眼鏡
チェックのシャツにリュック姿のいわゆるオタクさんの雰囲気の方でした。
彼から漂う石けんのかおりを確認しつつ、持ち主は
人を見かけで判断してはならないと、深く反省したのです。

今朝は晴れでした。
多摩方面は、久しぶりの晴れでした。
暑すぎず、寒くなく
気持ちのよい日差しです。
ただ、しばらくしたら
暑くなりそうですが。
持ち主も久々に太陽を浴びて
とても気持ちよさそうです。
温度上昇の予感に持ち主は
長袖を
脱げるようにしとけばよかったな。
と、思いながら周りを見回しました。
すると
電車を待つ持ち主の隣に
立っているお兄さんは
Ｔシャツ１枚ではないですか。
お兄さん、すでに夏ですね。

先週、ぼくの持ち主が働くビルでは
避難訓練がありました。
普通の避難訓練と変わらず
火災の放送が入り、避難です。
しかし、それは階段を降りていた時でした。
なんと、踊り場に
人が座り込んでいるではないですか。
それは若い女子で、足首を触りながら
濡れた瞳でこちらを見つめているのです。
この人は、リアルにケガをしたのでしょうか？
それとも誰かを待ってるんでしょうか？
持ち主だけでなく、周りのみなさんが
なにごとか？と、とまどっています。
気にはなりますが
なんとも話しかけづらい雰囲気です。
持ち主は、お姉さんを気にしながらも
避難集合場所に到着しました。
謎が解けたのは、消防の方の話を聞いたときでした。
その人は言ったのです。
今回の訓練には、怪我人を配備しましたが
大丈夫ですか？と話しかける方が数人いました。
大変よい訓練になったと思います。
ええっ。けが人を配備？
なんと、お姉さんはやらせだったのです。
最近の避難訓練はすごいです。凝ってます。
でも、お姉さんに声をかけられなかった持ち主は
自分をちょっと冷たい人だったと思いました。

通勤の途中、ぼくの持ち主は
またしてもおもしろいものを
見つけてしまいました。
そこは
車が乗れるエレベーターのついた
ビル型の駐車場です。
しかし、その日はなぜか
子供用シートがついた
自転車を押す女性が
エレベーターの前に
立っていたのです。
車用と思われるエレベーターの前に自転車。
なんとも不思議な光景です。
やはり自転車は、車同様にエレベーターに乗って、上階か屋上にあるだろう駐車場に行くのでしょうか？
持ち主は、その自転車が本当にエレベーターに乗るのかどうか確認したかったのですが
通勤途中のため、あきらめました。
自転車は、エレベーターに乗ったのでしょうか？気になって仕方ありません。

見てください。鍵です。
ぼくの持ち主が
会社で首からさげている鍵です。
持ち主が、なぜ首から
鍵をさげるようになったのか
ことの発端はこんな感じです。
その日持ち主は
いつもポケットに入れていた
ロッカーの鍵を、なくしたのでした。
しかも、会社のお姉さんに
鍵、なくしてない？と確認されて
ようやく鍵がなくなった事に
気付くという抜けようです。
そんな持ち主に、お姉さんは言いました。
すぐになくすんだから、首から下げときなさいよ。
そういう訳で、持ち主は鍵をさげているのです。
その姿は鍵っ子のようです。
本当にさげてるの？
と、たくさんの人に笑われますが、なくなりにくいし、意外に便利です。
みなさんにもおすすめいたします。

それを見つけたのは
ある朝、ぼくの持ち主が
通勤に向かう途中のことでした。
歩道に、なぜか靴が
片方だけ落ちていたのです。
男性物です。
ショートブーツのようです。
これまで、この道には
いろいろなものが落ちていましたが
その中でも一番高そうなものです。
しかし、いつも思うことですが
なぜ、片方だけの靴なんて落ちてるのでしょう？
不思議です。
やはり、酔っぱらいの仕業なのでしょうか？
ヒールなら、するっと脱げてしまうので
片方落ちていしまうことも、想像に難くありません。
けれども、ブーツです。
かなり一生懸命にならなければ、脱ぐことはできません。
どんな理由があったのでしょう？
足が痒かったのでしょうか？
それとも、小石でも入っていたのでしょうか？
その人だけが、その瞬間には知っていたであろう理由、なんだったのかを知りたいです。

それは、朝の通勤のときのことでした。
持ち主は、会社近くの
コンビニの前を歩きながら
なにげなく店の中を
のぞきこみました。
すると、
そこから女の人がでてきました。
ちらりと見てから
持ち主は思わず立ち止まりました。
なぜならその人は
以前同じ会社で働いていたお友達だったからです。
お友達も、持ち主を見て驚いていました。
話してみると、なんと持ち主が働くビルの
前にあるビルで働いているとのことです。
世の中、本当に狭いです。

その日
ぼくの持ち主の隣の席のお兄さんが
ため息をつきながら言ったのでした。
はぁ。年収一千万。
えっ。年収、一千万？
持ち主がびっくりして聞き直すと
お兄さんもびっくり顔をしました。
いま
年収一千万円って言いました？
言ってないよ。そんなこと。
じゃあ、なんてつぶやいたんですか？
来週、客まわり
全然ちがいます。
「しゅう」しか合っていません。
聞き間違いにもほどがあります。

ぼくの持ち主が掃除をしていると
携帯電話が鳴りました。
持ち主母からです。
持ち主母の用事は、海外のお友達に
お土産を持っていきたいが
なにかよい物はないか？
という質問でした。
持ち主は、少し考えて
京都のがま口小物のお店
あやの小路を紹介しました。
お父さんに、お店のＵＲＬを送るから見てみてよ。
通常持ち主が、ＰＣの使えない持ち主母に情報を伝えるときは
持ち主父にＵＲＬをメールで送り、それを持ち主父がチェックして
必要事項を印刷して持ち主母に渡すという、まどろっこしい方法を用います。
しかし、持ち主母が言いました。
お父さん、いないのよ。
ここで、二人は協議に入りました。
持ち主が、適当にみつくろったがま口を持ち主母に送るか？
あるいは持ち主母が、がんばってウェブサイトを見てみるか？
すると、持ち主母が言いました。
がんばって、コンピューターを見てみるわ。
持ち主母に、ＰCの知識はほとんどありません。
それでも、やろうという持ち主母は、とりあえずＰCを立ち上げました。
お母さん、青くｅと書いてある表示はない？左側だよ。
ないわーないわー。
持ち主母は、インターネットエクスプローラーという言葉を知りません。
アイコンという言葉も知らないかもしれません。
あった。これ、押すの？あら、動かない。２回？２回押すの？
ようやく、ＩＥが立ち上がりました。
しかし、持ち主は、持ち主父がトップのページになにを設定しているのか知りません。
お母さん、おきにいりっていうの知ってるわよ。
どうやら持ち主母は、おきにいりを発見したようです。
そこに、Googleってない？
う～ん。う～ん。ないわねえ。
困りました。URLに直接アドレスを打つのは、持ち主母には高度すぎるでしょう。
ねぇ、その画面のどこかに、検索って書いてない？
持ち主父のトップがなんであれ、どこかに検索機能が、あるにちがいありません。
とにかく、Googleまでたどりつかねばなりません。
ああ。あるある。
そこに、カーソル、いや、矢印を置いて一回クリック。いや、カチってしてみて。
そしたら、チカチカ点滅するから。
持ち主は、必死に画面を想像します。
はいはい。ああ。できたできた。
そしたら、Googleって入れてみて。
持ち主母は、昔タイプを使っていたので、ローマ字を打つことはできます。
ｇ、ｏ、ｏ、ｇ、ｌ、ｅ。できた。
そしたら、横の検索ってボタンを押して。
検索？検索を押すの？あら。なんかでてきた。
ショッピングなら楽天？
なぜ、Googleを検索したのに、楽天が出て来たのかは謎ですが、都合がいいです。
楽天？あ、それ押して。楽天。
はいはい。あら。なんか出てきた。
それが、楽天のページだから。そこにがま口屋さんがあるから。
そのページの上の方に、検索ってある？そこの横の枠に「あやの」って入れて。
あやの？
そう。さっきみたいに、矢印を枠に入れてカチっておすと、チカチカするから。
あら？手になっちゃったわよ。手に。あ。矢印になった。はい。
あ、や、の
持ち主も、楽天のトップに入り、操作しながら話します。
そしたら、あやのの下にあやの小路って出てこない？
ああ。でたでた。あやの小路、あやの小路　がま口
あ、それを押して押して。
押す？押すの？どうやって？
これは不親切でした。初心者には、詳細な説明が欠かせません。
ああ。文字のところに矢印持って来て。そしたら青くなるから、青くなったら押して。
ようやく、商品検索まで来ました。もう少しです。
たくさん、商品が出て来た？
出て来た。出て来た。
一番上にある四角い画像の横に、ショップって書いてない？そこを押して。
ショップ？ショップ。あった。あった。あら、押せないわよ。
おお。またまた不親切でした。
ああ。ショップの横にある、あやの小路って青いところを押すんだよ。
文字の上に矢印を持っていって、手の形に変わったら、それが押せる印なんだよ。
こうして、持ち主母は、長い冒険の末
ようやくあやの小路のトップページにたどり着いたのでした。
あとは、見たいページを押して進み、迷ったら、左上にあるお店の名前を押すと
お店のトップページに戻ることを伝え、持ち主は役割を終えました。
持ち主も大変疲れましたが
まったく知らない世界へ飛び込んだ持ち主母も大層疲れたことでしょう。